デジタルカメラが出まわりはじめた1996年、レンズをクリクリ動かして自撮りのできる自慢の最新モデル、ソニーのサイバーショットDSC-F1で撮影。

僕は紙で立体をつくっています。展開図を起こして組み立てる、ペーパークラフトというやつです。モチーフは、ときに動物だったり、ときに人物だったりといろいろですが、このところ、動物の作品が多いです。その為、実際の動物を観察しに動物園へ取材に出掛けたりもしています。

 去年の暮れのことです。ゾウガメをつくろうと思い、例の如く上野動物園へ取材に出掛けました。寒さのためにゾウガメは、飼育小屋の中にいて外には出てこないということなので、事前に理由をお話ししてアポイントをとっておき、飼育係の方といっしょにで小屋の中に入れてもらいました。

 小屋の扉を開けると、六畳間くらいのコンクリート張りの部屋の中央に、岩のようなかたまりがうずくまっています。「こいつはバナナが大好物なんだよ。」と言いながら、飼育係のおじさんは手に下げたビニール袋の中からバナナを一本取り出し、皮つきのまま顔の前にちらつかせて見せました。さすがのゾウガメもバナナの誘惑には勝てないと見え、のそりと起き上がると首をニョキッとのばして歩きだしました。「ほーら、な。」と、おじさんは誇らしげです。僕はここぞとばかりにカメラを構え、バナナを追うゾウガメを追い回し、シャッターを切りまくります。

 しばらくしておじさんは、僕に袋を手渡すと外で仕事を始めました。小屋の中はとても暖かです。僕は着ていたコートを部屋の隅に置いて、バナナを片手にゾウガメをおびき寄せ、もう一方でシャッターを切りました。さながらスペインの闘牛士気分です。頭の中をフラメンコが鳴り響きます。オレィ!

 小屋の中でふたり(?)きり、小一時間ほど過ごしたでしょうか。すっかりゾウガメ君とも打ち解け、ツーショット写真も撮りました。ペーパークラフトの資料の写真も十分撮ってひと安心。そんな満ち足りた気分の僕に悪夢が襲いかかりました。気づくと、僕のとなりにいたはずのゾウガメが見えません。辺りを見回すと、部屋の隅でもぞもぞやっています。何か食べているようです。「おかしいなあ、バナナは全部あげたはずなのに何食ってんだ?」と覗き込むと、何かってそれは昨日クリーニングからあがってきたばかりの僕の黄色いコートじゃあないですか!?「ちょっと待てい!お前の好物はバナナじゃないか。それは僕のコートだぞ!」あわてて取り返したものの、お気に入りのコートにはよだれがべっとり。のんきにムニャムニャやってるゾウガメを尻目に、半ベソでよだれをぬぐう僕の姿を見たらスペインの闘牛士もあきれることでしょう。

 「またクリーニングに出さなくちゃ。」ゾウガメのよだれにまみれたコートを着て僕はひとりつぶやくのでした。僕の制作の日々はつづく...。

東京動物園協会・会誌「どうぶつと動物園」1997年11月号・動物だんわ室より

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